邦光史郎「幻の法隆寺」「幻の恋歌」「幻の古代文字」

邦光史郎「幻の法隆寺」(1977)
歴史は勝者が作る。ゆえに敗者について書かれた歴史的記述は、眉に唾をつけて読まなければならない。
聖徳太子の時代は、蘇我氏、そして聖徳太子自身についても、この作品で指摘されている通り歴史的記述には矛盾が多い。(物部氏もそうだが、この作品では触れられていない)
この作品で展開されている、そのルーツを含めた皇極(斉明)女帝黒幕説は、なかなかに面白かった。このシリーズの古代史解釈で、初めて面白いと思った(笑)
さて、若い頃に手ひどい裏切りにあったために、極度の女嫌いになった探偵役の中年神原東洋であるが、今回は同じようなトラウマを持つ女性と結ばれる寸前までいく。個人的には結ばれて欲しかったが、シリーズもので主人公の恋が実ると、その後が大変だ、という事は明智小五郎で証明済みなので、これは致し方ないところか。

 

邦光史郎「幻の恋歌」(1978)
この作品は「幻シリーズ」であるが探偵役の神原東洋が出てこない。他の作品は光文社のカッパ・ノヴェルズから徳間文庫の流れだが、この作品だけ初出が学習研究社という事情だからだろうか。
今回の古代史テーマは琵琶湖であるが、謎と言うよりはミステリーに彩りを添える程度で、それはそれでよいのだが、ミステリーとしては最後が肩透かしだし、話も暗すぎる。

 

邦光史郎「幻の古代文字」(1978)
当時は「古代文字」がけっこうブームで、私もいろいろと買って読んだもので、懐かしい。
この作品では、「古代文字」についても、通り一遍の解釈ではなく、一歩も二歩も踏み込んであるのがさすがと言えばさすがである。