モーツァルト歌劇「フィガロの結婚」K.492 カール・ベーム指揮 ウィーン国立歌劇場日本公演 1980年

さて、前日に書いた上記のDVDであるが、各通販サイトのレビュー等を見ると「待ちに待っていた!」といった記述が実に多い。私だけでは無かったのだ。サイトによっては予約だけで売切れとなっているところもある。クライバーのベト7まではいかなくても、これがヒットすれば、眠っているNHKのオペラ映像のDVD化への道が広がるぞ。わくわく。で、発売まではまだあるのだが、覚えている事を少々。
第2幕終曲の重唱で、伯爵が"Ola! silenzio silenzio silenzio"と歌う同一音形が転調しながら3度でてくる。最高音が最初はF、次はG、最後がEなのだが、2度目のGの時、モーツァルトはオクターブ下のGを書いている(ので音形が変わってしまっている)どうも当時の歌手と今の歌手の音域には差があったようで、だいたい今より低く書かれている場合が多い。(「魔笛」のモノスタノスはテノールとなっているが、楽譜を見ると明らかにバリトンの音域である)(例外は達人がいた時にその人に合わせた場合で「魔笛」の夜の女王などがこれにあたる)しかし、この部分は伯爵が他の登場人物に「黙れ!」としかりつけている場面なので、オクターブ低いとなんともしまりが無い。そこらへんを考慮したのか伯爵役のヴァクルは、ここを前後の音形に合わせてオクターブ上を朗々と歌っている。わたしは「フィガロ」というものに接したのは実はこのNHK映像が初めてで(今もあるかは知らないが)TVの音声が入るラジカセで録音して(現在は手元に無いが)長らく聴いていたので、この部分が楽譜と違うと言う事を知らなかった。他のフィガロを聴いて「あれ?」と思い、ピアノスコアを買って確認してびっくりした、という思い出がある。
ヴァイクルといえばどちらかというと直情型のバリトンなのだが、上記終曲の中で(上記より前の部分だが)フィガロの弱みを握ったとして、得々としてフィガロに語りかける部分の「フィガロ」という歌詞を、彼にしては珍しくユーモラスに歌っていたのも印象深い。何度も言うが私の初めてフィガロがこれだったので、後から他のフィガロを聴いても、ここの部分が普通に歌われていると、なんかいんずい(方言)刷り込みいうものは恐ろしい。
刷り込みと言えば、第3幕の伯爵夫人のアリア「いずこぞ よろこびの日」であるが、冒頭のすぐ後"di dolcezza e di piacer"の"-cezza e"部分、音符的には16分16分4分8分で"ce"で16分2個"zza"で4分で朗々と伸ばすのであるが、ヤノヴィッツは(常に)"ce"だけで16分16分4分を使い"zza e"を残りの8分に押し込む。この部分は朗々とはいえ、かなり抑えた歌い方をしなければならない高音部で(たぶん)"a"音や"o"音は力を込めて歌うには適しているが、押えて歌う場合は"i"音や"e"音の方が歌いやすいし、聴いている方も耳に心地よい。ポップもそうだが、ヤノヴィッツは抑えて歌う部分が絶妙な歌手であるし、そこらへんを考えての彼女の改変だと思われる。(本当は楽譜どおりに歌うべきなのだろうが)彼女以外にこの歌い方をしている人を知らないのだが、これも刷り込みで、他の人が楽譜どおりに歌っているのを聴くといんずい。(方言)
細かい話を長々と失礼しました。