中津文彦「風の浄土」

風の浄土(2011)
中津文彦
中津文彦最後の「義経&蝦夷」小説である。
第1章は、少年義経が鞍馬山から平泉へたどり着くまで、第2章は、遡って後三年の役後の藤原清衡が奥州藤原四代の礎を築くまで、第3、4章は、鎌倉に追われて義経が平泉へ戻ってから奥州藤原氏滅亡までで、全体として表題である「風の浄土」としての奥州を描く。
興味深かったのが、これまで中津氏が、義経北方伝説は「藤原氏の大陸へ援軍要請を義経が請け負った」というスタンスで書き続けてきたのが、「義経が後白河法皇へ鎌倉追討の院宣を賜るために、その使者として藤原忠衡が、鎌倉の勢力下にある陸路を取らずに、十三湊から京都を目指した旅路の従者の中に(義経の影武者という説のある)杉目太郎行信がいたことがルーツ」とほのめかしている点。
勿論中津氏は、最初の説を変えたわけでは無いと思うが、さまざまな可能性を探る意味では新説として説得力がある。
全体として、大変美しい小説であるが、泰衡を愚者として描くスタンスだけは(個人的に)いやだな。