死への旅(1954)

アガサ・クリスティ
最近の読書は、もっぱらクリスティの読み返しをしている。
最初が短編集のみ、次にマープルものを執筆順、ポアロものを執筆の逆順で読み返したりしている。
そして、初期のいわゆる「冒険(サスペンス)ミステリー」を読み返し始めたのだが、個人的に作成しているクリスティの著作リストを眺めていて、この「死への旅」を家で探したのだけれど見当たらない。以前、いわゆる普通小説以外のクリスティは、全部揃えたつもりだったのだが、ネットであらすじを見ても覚えが無いので購入から漏れていたものと思われる。クリスティには「死」から始まる作品がけっこう多いので(死との約束、死が最後にやってくる、死者のあやまち、死の猟犬 死人の鏡)ごっちゃになったか、普通小説と勘違いした可能性がある。で、慌ててユーズドで購入した。
クリスティの「冒険(サスペンス)ミステリー」は、ほとんどが本格推理ものが軌道に乗るまでの初期の作品なのだが、この作品に限っては「葬儀を終えて」や「ポケットにライ麦を」の翌年、つまりは中期の傑作群の合間に書かれた珍しい作品である。同じジャンルとしては「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」(1934)からなんと20年ぶりということになる。なので、若干渋く、サスペンスには若書きの勢いの方がいい感じかな、という気もするが、読み応えはある。
ちなみにネット上では原題と邦題がかけ離れている、という非難がある。
原題は"Destination Unknown"で素直に訳せば「知られざる目的地」となる。
しかし、最初主人公が自殺を図る際に「知られざる目的地への出発を待っている旅行者」という描写があるので「自殺=死への旅」となり、かつ、その後の主人公の運命が、死をも覚悟しなければならない環境へ旅立つ、という意味では、邦題はなかなかセンスがあるのではないか?
ちなみに、舞台が北アフリカに移ったときに「バーバリ人」という現地民族が出てくる。原書のつづりはわからないが、これは「ベルベル人」の事ではないか(こちら
最後にもう一つ。ラストのセリフのやりとりで「どうやら彼女の旅の終着点は、おきまりのところらしいな」「ああ、なるほど!シェイクスピアか」というのがある。これは「恋」の事をいっているのだが、たぶん欧米人にはピンと来る有名なセリフでもあるのだろう。ネットで調べてみたがよくわからない。でも、気になるなあ。

追加事項
英題は"Destination Unknown"だが、米題は"So Many Steps to Death"なのだそうだ。
「死ぬには手間がかかる」とでも訳せばいいのかな。ここらへん、アメリカ人の好みそうなタイトルにしたのだろうが、文化的センスの英米の違いがわかて面白い。