もうひとつの第9 ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱付き」

フルトヴェングラー指揮 バイロイト祝祭管弦楽団(1951)
タワレコで思わず衝動買い、帰宅して調べたら去年の末からすでにネット上では話題騒然だったようだ(汗)
早い話が例のバイロイトの第9(EMI盤、以下E盤)と同日録音なのに別音源(バイエルン放送局のラジオ放送用録音、以下B盤)が見つかったという話。
それについては、大きく分けて以下の見解があるようだ。
1.B盤こそが、当日の本当のライブ音源で、E盤はライブ音源とリハーサル音源が編集されたものである(今回の発売元の主張)
2.B盤がリハーサル音源でE盤こそ本当のライブ音源である(クエスチョン付きで上記の日本盤の解説の主張)
3.B盤がリハーサル音源だが、E盤もライブ音源とリハーサル音源が編集されたものである。
ネット上では大半が1.の見解を受け入れた上での感想になっているようだ。
さて、第1楽章について言えば、B盤は(あくまで比較しての若干の差だが)よくいえばリラックス、悪く言えばしまりが無い。E盤のほうが程よい緊張感がある。これを「よせあつめオケのリハだから緊張感があり、その後の本番だからリラックスしている」と見るか「リハだからリラックスしている」と見るかは見解の違いだろう。しかし、B盤は矛盾しているかもしれないがリラックス感はあるのにギクシャク感もある。展開部、再現部で(わづかに)唐突にテンポが上がる部分があるのだが、これはフルトヴェングラーらしくない。彼は速いテンポに持ってゆくまでには伏線として充分その前の部分から徐々にテンポを上げてゆくからだ。なので、個人的にはB盤のほうが、振りながらテンポを指示していると見て「リハ」だと思いたい。
2楽章以降はB盤も緊張感が出てきて、演奏はほとんど似通っている。感動もE盤にひけをとらない。というか同じに聴こえる部分もあるので、E盤が編集盤というのもうなづかざるを得ないかもしれない。
実際、演奏上のミスやアラはE盤のほうが多い。有名なアダージョのホルンや終楽章終結部の破綻等。しかし、解説にもあるが、ミスがあるほうのリハの音源を編集でまぜて、あえて正規盤として発売するだろうか、という疑問が湧く。編集の疑いがあるとしても、ミスがあるほうが本番としたら、当然ミスの無いB盤の方がリハーサルと言うことになる。
よって、個人的には上記の「3.」の説をとりたい。
極論を言えば、フルトヴェングラーのリハ音源と本番音源が他の曲で存在し、その違いを検証してみなければ、今回のE盤B盤どちらが本番かという検証は、(前述の通り)その人の見解の域を出ない。
前述の終楽章終結部の音楽の破綻は、それこそ本番の興奮を伝える名演奏だと、50年以上言われ続けてきたが、破綻の無いB盤を「あのフルトヴェングラーが本番で破綻するわけが無い、だからB盤が本番」と考えるか「破綻が無いからこそリハである」と考えるかは、聴く人の考え方次第という事である。
ここで思うのは、喧々諤々の討論より、一発でどちらが本番か分かる方法が実はあるのではないか、という事。つまりは、1951年にバイロイトでこの演奏を生で聴いている人が、未だに生きている可能性がゼロではないということだ。そこに20歳前後の人がいたとすれば現在80歳ならまだ存命の可能性がある。その人が、その後発売されたE盤を聴いて、終結部はこんなのじゃなかったような気がする、とか、まさにこのとおりだった、と言えば、そこでその問題は終了である。また、万が一当時の聴衆すべてが亡くなっていたとしても、これだけの有名盤であるE盤が発売された後に、当時の聴衆がこの盤に対する意見を、現在存命中の若い家族や知り合いに語った可能性も充分あるのである。なぜそんな意見が出ないのだろう。もしかしたら本国ではその調査をしているかもしれないが。
いずれにせよ、演奏の出来はいいし、マイクの位置が違うようで、E盤より若干音がよく細部が鮮明なので、バイロイトの第9を愛する人にとっては一聴に値すると思う。