梓澤要「光の王国 秀衡と西行」(2013)

西行関連を検索して発見し購入した。後から気づいたが以前感想を書いた「井伊直虎 女(おなご)にこそあれ次郎法師」の作者であった。

https://hakuasin.hatenablog.com/entry/2017/12/11/045400

西行は若き日と晩年の2回平泉を訪れているが、この作品は最初の訪問が物語のほぼ大半を占める。作品によると西行の四歳下が秀衡なので、二人とも二十代の若々しさである。秀衡と言えば一般にはどうしても義経との関係で語られたり作品で取り上げられることが多いため、常に老齢のイメージなので若々しい秀衡が描かれているのは新鮮だ。
また、基衡と陸奥守藤原師綱との軋轢の裏話等、史実にフィクションを絡ませるやり方が絶妙である。
子供時代の運慶が出てきてびっくりしたが(寡聞にして知らなかったが)運慶は越寺本尊薬師如来像を基衡の要請で作成しているという史実があり、そこら辺からの話の膨らめさせかたもじつにうまい。
しかし、実はこの作品の良さはそんなことよりも、事件そのものよりも事件によって影響を受ける人々の心情に真摯に寄り添った筆致にあると思う。
なので(悲劇はあるが)読後感のすがすがしさが素晴らしく、久々に読んていて気持ちがいい小説であった。機会があったら他の作品も読んでみたい。