ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」

フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1947.5.25)
フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1947.5.27)
10種類以上あるフルトヴェングラーの第5の中で、長らく1947年5月27日収録のものが名演奏の定番としてその地位を保ってきた。ご存知の方もいると思うが、彼は戦争中亡命をしなかったことで連合国側からナチ協力の疑いをかけられ長らく演奏禁止状態であった。彼にしてみれば、いくら政府がナチスであっても、国民をおいて国を離れることは出来ないという信念があっての事だったのだが。そして晴れて疑いが晴れて演奏が出来るようになってからの復帰第1回目の演奏会が1947年5月25〜29日に開かれた計4回の演奏会だった。その中の5月27日のみがレコード化されていたのだが、何年か前に正真正銘の復帰第1回目の演奏である5月25日の演奏が発売された。その時は買わなかったのだが、今回フリッチャイを買った事、また今年5月25日の演奏が再CD化されたことで、聞き比べてみようということで購入した。
音は5月27日にかなわない、5月27日はラジオ放送用なので今聴いても生々しく音をひろっており、フルトヴェングラーがリズムをとる足音や、客席の咳まで拾っているが、それだけ迫力もある。また5月25日は若干固いかもしれない。しかし第4楽章は、復帰の興奮からか速度が上がりすぎの感あり。フルトヴェングラーファンでなければ5月27日を持っていれば充分だ。
思えば、フルトヴェングラーを知った時は(19ぐらいではなかったか)そんなに何種類も第5があることさえ知らず、最晩年の遅いテンポのレコードを買って、こんなものかと思った。その後1947年がすごいという話を聞き、レコード屋で試聴した。当時つきあってた彼女もクラシックを聞く人で、第1楽章終了直前の激しい弦の切り込みに、思わず顔を見合わせて以心伝心「すごい!」と手をとりあった。レコード屋のおじいさんが、やはりクラシックを聞く人らしく、そんな我々を見て、にやりとしたのを覚えている。そして、これが私がフルトヴェングラーに目覚めた最初だった。
今聴くと「ふるとめんくらう」指揮がゆえに、運命の動機でファゴットがフライングしたりするのも、かえっていとおしく感じてしまう。とにかく、好き嫌いに関わらず、1度は聴くべき演奏である。